「解砕」(かいさい)とはなにか

液中で凝集した微粉体(金属粉末、セラミック粉末、樹脂粉末、カーボンパウダー等)をほぐす

粒子間には、互いに集まろうとする『付着力』(ファンデルワールス力や静電気力など)が働くため、いったん液中に粉体を分散させても、時間とともに凝集して大サイズになってしまいます。
それをバラバラにほぐして再分散させるには、付着力を上回る『分離力』を凝集体に加える必要があります。分離力を加えて一次粒子のサイズに戻す操作が『解砕』です。

似たような用語に『粉砕』がありますが、固体にエネルギーを加えることで砕いて小さくする操作が粉砕です。一次粒子のサイズを変えてしまうので、解砕とは異なる概念です。解砕と粉砕の違いは、右のイメージ図でご理解ください。

付着力を上回る分離力を凝集体に加えることは、簡単そうにみえて実は難しく、スラリー(液体と固体の混合物)を扱うエンジニアにとって悩みの種です。
しかしOHRミキサーを使うと簡単に解砕できるため、大変驚かれます。そのメカニズムを順を追ってご説明いたします。

OHRミキサー内部で生み出される強いせん断力によって解砕はできますが、粉砕はできません。機械的に刃で切断したり、すり潰したり、叩き壊したりする機能は、OHRミキサーにはないからです。

【粉砕機】や【撹拌機】を解砕に使うデメリット

多くの動力を使ったからといって、解砕が進むわけではない

粉砕のための装置(粉砕機)が、解砕向けにも数多く販売されています。粉砕機として代表的なものを以下に挙げます。

  • ボールミル・ビーズミル:
    セラミックス製のボール(メディア)をスラリーと一緒に容器に入れて回転させ、メディアの落下エネルギーを利用して打撃力を加える
  • ハンマーミル:
    容器内で金属製のヘッドを高速回転させ、容器の内壁にスラリーをこすり付けて、すり潰す

これらの装置を解砕に使うと、凝集体に機械的な打撃力を長時間にわたって与え続けるので、下記のデメリットがあります。
下のイラストとともにご覧ください。

  1. 一次粒子のサイズを変えてしまう。(解砕時に粒子サイズが変わると、性質が変わって困るテーマがある)
  2. ボール、砥石、刃などが磨耗して、原料中にコンタミしてしまう。
  3. バッチ処理が主体で、処理時間が長い。 装置サイズも動力も大きい。
  4. 特にハンマーミルの場合、摩擦熱により粒子が変質する。

また、『撹拌機』を使って解砕する試みもありますが、かなり長時間をかけても目標の解砕レベルには至りません。
撹拌機で流体を撹拌すると、混ざることなく停滞する領域【孤立混合領域】(非混合領域)が容器内に生まれることはよく知られていますが、撹拌機で解砕が進まない理由は【孤立混合領域】だけが原因ではな く、高速回転する撹拌翼はほとんど凝集体に当たらず、また当たっても非常に弱い打撃しか与えられないからです。
右の動画でご確認ください。
※この動画では、凝集体に見立てた黄色い樹脂(比重≒1.0)を入れています。

実際に当社に寄せられた「撹拌機を使って数時間から1ヶ月超、撹拌し続けてもダメだった」というユーザー証言は、撹拌機の原理的限界を表しています。

OHRミキサーによって解砕できた事例/凝集したカーボンの解砕

ワンスルーで、低圧で、OHRミキサーで良好に解砕

某化学メーカーは、直径5〜10mmに凝集したカーボンスラリーを解砕できず困っていました。さまざまな撹拌機を試しましたが、数時間撹拌し続けても解砕できませんでした。
ところが、OHRミキサーに低圧で1回通しただけで、非常に良好に解砕・再分散できました。
処理フローは、以下のとおりです。
なお、OHRミキサーによるワンパス処理に要する時間は、たった数秒です。

対象の凝集体はカーボンに限らず、金属粉体でも、セラミック粉体でも、樹脂粉末でも、さまざまなスラリーに使われて、いずれでも高い評価を受けています。より詳しくは、お問い合わせください。
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なぜ、OHRミキサーを通すだけで、良好に解砕できるのか

OHRミキサーに送り込まれたスラリーは、その全量が漏れなく、強いせん断力を受ける

粉砕機も、解砕機も、撹拌機も、スラリーを入れた容器の中で物体を動かして打撃力を加えます。しかしそれでは、打撃を受ける部分と受けない部分が生まれてしまい、不均一になります。
またスラリー中で物体を高速回転させても、凝集体の周囲を満たしている液体が緩衝材となって、凝集体自体に打撃力が作用しにくく、これも解砕が進みにくい原因です。

OHRミキサーの場合は、送り込まれたスラリーの全量が漏れなく内部を通過し、均一な打撃が与えられます。
さらに、内部に固定されている2種の特殊構造物のうち、最初の交差した板(ガイドベーン)によって遠心力をかけて、スラリーを構成する【凝集体】と【液体】の比重差を利用して互いを引き剥がして2層に分けた後、幾段にも設けられているキノコ状の構造物(カレントカッター)に衝突させて、極めて複雑な乱流を生み出し、せん断力を加えます。
OHRミキサーは高圧乳化機の代わりとして使われますが、この事実は、内部に生み出すせん断力の強さの証明でもあります。

詳しいメカニズムは、下記URLからご確認ください。
メカニズム図解

なお、OHRミキサーは【インラインミキサー】に分類されますが、一般的なインラインミキサーは単調な流れ(具体的には、内部に取り付けられたプレートで2分割を繰り返すなど)しか生み出せません。
スラリー中の凝集体は、その周囲が液体で満たされていますので、一瞬のうちに衝突を繰り返すような、激しく複雑な流れを生み出さないと、凝集体は液体と同じ挙動で動いてしまって打撃を与えられません。
一般的なインラインミキサーが解砕に使えないのは、内部で生み出した乱流が一過性で終わってしまい、凝集体に衝撃を与えるまで至らないからです。