排水処理テキストに書かれている、《曝気槽におけるDOは、2.0mg/L以上が良い》は真実か?

DO(Dissolved Oxygen:溶存酸素濃度)は、高ければ高いほど良いのか

世界中の排水処理場で、維持管理のためにDOが重要視されているにもかかわらず、曝気槽におけるDOの考え方について深い議論はされてきませんでした。
排水処理のテキストにも、【曝気槽におけるDOは、2.0mg/L以上をキープするべき】というような、ごく簡単な記述があるのみです。
そこで排水処理現場では、担当者の経験則によって、日々手探りの運転管理を行っているのが実態です。

  • Q1: DOとはなにを意味する指標なのか?
  • Q2: 適正なDO値はいくらか?
  • Q3: DO値は高ければ高いほど良いか?
  • Q4: DOの正しい測定方法は?
  • Q5: DO計に代わる、もっと有効な計測器はないのか?

当社は40年に渡って排水処理に携わってきました。
その経験から得られた、DOについての正しい認識につき、以下にまとめてお伝え致します。

Q1: DOとはなにを意味する指標なのか?

DOは、微生物によって消費されなかった“過剰分”“オツリ”です

たとえばDO計を使って一般的な水道水を測れば、ほぼ飽和値の8〜9mg/Lという高い数値が出ることが多く、逆に酸素枯渇の井戸水を測れば0mg/Lという値が出ることも珍しくありません。
このように、その水の中に【どれほど酸素が溶けているか】を測定できるのがDO計です。
ところが曝気槽においては、これを【どれだけ過剰に酸素が溶けているか】を測定していると言い換えた方が、排水処理におけるDOの本質が見えてきます。

グラフ

そもそもなぜ曝気槽で曝気を行うのかといえば、曝気槽内の微生物群が消費する分を、常に補わなければならないからです。
好気処理を行う以上、酸素供給は絶対に必要です。
散気装置で水中に供給した酸素は、微生物によって瞬時に消費されていきます。

どんなに高性能とPRしている散気装置を使っても、供給された全空気量のうち、実際に排水中に溶けるのは水深5.0mでせいぜい10%ほどです。
(詳しくは、アルファ値とはなにか を参照)
それが、水色で示した部分です。

その10%だけ溶けた酸素のうちのほとんどを微生物群が使いますが、有効に使われなかった“過剰分”が出てきます。
それがDOで、黄色で示した部分です。

最大の問題は、DO=2.0mg/L以上というような過剰なオツリをつくることに、いったい何の意味があるのかです。
仮に排水処理のテキストどおりにDO=2.0mg/L以上をキープすることは、微生物に利用されることのない過剰な酸素供給を行い続けることに他ならず、多大なブロワー電力が必要となります。

排水の負荷変動が大きい現場で、【あらかじめ高いDOをキープしておいて、急激な負荷変動時に対応する】というケースもありますので、DO=2.0mg/L以上を全否定することはできませんが、明確な意図がなく、一律に DO=2.0mg/Lを目指すべきというのは、明らかな間違いです。

Q2: 適正なDO値はいくらか?

曝気槽の上流では、DO=0mg/Lでも普通。下流で0.5mg/L〜1.0mg/Lあれば充分。

排水処理の熟練技術者に、「適正なDO値はいくらだと思うか?」と尋ねて、「DO=2.0mg/L以上が良い」と回答する人はまずいません。「DOはわずかにあれば良い」という意見が大多数です。
当社が考える適正なDOは、以下のとおりです。
なお適正なDO値は、曝気槽の上流域〜中流域〜下流域で変わります。それぞれの槽が受け持つ役割が異なるからです。

仮に曝気槽が3つあって、第1曝気槽 ➤ 第2曝気槽 ➤ 第3曝気槽 ➤ 沈澱槽とある場合、

● 第1曝気槽(上流域):
BOD除去が活発に行われるため、微生物による酸素消費も活発で、DOはゼロでも普通です。
● 第2曝気槽(中流域):
DOは0.1mg/L以上あれば良いと考えます。
● 第3曝気槽(下流域):
DOは0.3mg/L〜1.0mg/L程度あれば良いと考えます。

※ただし、第1曝気槽ではDO=0mg/Lでも良いという意味は、「健全なゼロ」であることが前提です。
 DO計のゼロは、健全なゼロもあれば、不健全なゼロもあります。詳しくは、Q5をご覧ください。

Q3: DO値は高ければ高いほど良いか?

高すぎるDOは、沈澱槽における沈澱不良を起こす

曝気槽の最終槽でも、強く曝気をしている現場があります。
DOは高ければ高いほど良い、と信じ込んでしまっているケースです。
そういう現場では、無駄なブロワー電気代がかかってでも、高いDOをキープしようとします。

しかし、微生物汚泥と処理水との分離を沈澱分離法によって行っている現場では、沈澱槽の直前で強く曝気し過ぎると汚泥が解体気味になって、沈澱槽における沈澱が悪くなるためよくありません。微生物汚泥が処理水に混じって流出してしまうキャリーオーバーの一因となります。いわゆる「過曝気」です。

なお、膜分離法で強制的に汚泥と処理水とを分離しているケースでも、強い曝気で汚泥が解体気味になると膜の目詰まりが起きやすくなるため好ましくはありません。
曝気槽の上流域では強い曝気を、中流域ではほどほどに、下流域では緩やかな曝気を行う、というメリハリを付けるのが、適正な曝気方法です。

【DOが高いほど微生物が活発になって排水処理がうまくいく】ということも、まったくありません。
計算によって導き出される必要酸素量以上のものを供給しても、それは微生物群によって有効活用されることはなく、エネルギーロスとなるだけです。

Q4: DOの正しい測定方法は?

“溶存酸素”ではなく、“気泡中の酸素”を測定しているケースが多い

一般的な溶存酸素濃度の測り方は、❶ヒシャクを使って曝気槽から汚泥水をサンプリングして、❷そのサンプリング水のDOを測定する、という方法です。しかしこれでは、サンプリングの際に大気を拾ってしまいますし、サンプリングの方法によっても、結果が変わってしまいます。曝気槽の表層部のDOしか測れないという欠点もあります。

当社が行う曝気槽のDOの測り方は、ハンディタイプのDO計に10m長の電極を付けて、曝気槽に直に投げ込む方法です。
これであれば、実際のDOをダイレクトに測定できます。
電極を垂らす水位レベルを変えれば、表層部・中層部・低層部のDOを測定することもできます。表層部と低層部のDO差が顕著であれば、曝気槽内で汚泥濃度の濃淡ができていて、均一に攪拌されていないことを意味します。

写真
長い電極を使って測定する際には、電極の向きに注意が必要です。
普通に投げ込めば、電極は下向きになりますが、ケーブルを折り曲げてビニールテープなどで電極とケーブルとを巻き付け、電極を上向きにします。
右の写真のとおりです。

これは、気泡(エアー)が電極の先にダイレクトに当たって、溶存していない酸素濃度をDOとして計測してしまうことを防ぐために行う工夫です。
電極を上向きにすれば、上昇してくる気泡がダイレクトに付く、ということは防げます。
この工夫をして初めて、DOを精確に測定できます。

(※このやり方は極めて重要ですが、 ほとんどのケースで、電極が下を向いた状態で測定されています。)

Q5: DO計に代わる、もっと有効な計測器はないのか?

ORP計(酸化還元電位計)が、DO計より はるかに有効です

活性汚泥処理の管理は、DO値ではなく、ORP値によって管理するのが合理的です。
ORPとは、Oxidation-Reduction Potentialの略で、日本語では「酸化還元電位」といいます。
測定対象液が酸化状態にあるのか還元状態にあるのかを、プラス2,000mV〜マイナス2,000mVというワイドレンジで計測できます。DO計と同じような、ポータブルタイプのものが市販されており、10m長のケーブルを取り付ければ曝気槽に直に投げ込んで測定できます。

ORP計を使った排水処理管理を行う最大のメリットは、ORP計はマイナス域まで計測できるため、どれくらい酸素が不足しているのか把握できることです。

グラフ右のグラフをご覧ください。
某食品工場における、OHRエアレーターを設置してから2年間に渡るDOとORPの同時測定結果のグラフです。
(この測定レポートは差し上げますので、お問合せください)

この現場では、曝気槽の槽底に嫌気性汚泥の堆積が大量に あったため、OHRエアレーターで曝気を開始したところそれを強力に巻き上げ、一時的な酸素不足に陥りました。

上の緑色のラインがDO計での測定結果です。
2000年4月にOHRエアレーターを設置してから、8月までの丸4ヶ月間に渡ってDO=0mg/Lです。
もしDOの測定結果しか判断材料がなければ、「OHRエアレーターは低効率の散気管である」と評価されてしまいかねません。

しかし、下の赤色のグラフ(ORPの測定結果)をみると、曝気槽の状態は確実に回復していることが分かります。
だから、「今は回復途上だから、様子を見れば良いのだ」と 診断できるわけです。

つまり、DO=0mg/Lには、以下の2つのケースがあります。

❶酸素の供給スピードと消費スピードのバランスが取れている健全なゼロ
❷酸素の供給が追いつかず、消費スピードが勝っている強い嫌気状態のゼロ

この2つのうちのいずれの状態なのか、ORP計でなければ判断できません。

曝気槽の酸化・還元状態(酸素が足りているか、不足しているか)をワイドに測定できるORP計は、非常に有効であることが徐々に認知されてきており、ORP計による管理を行う排水処理場が増えてきています。

ORP計による運転管理の目安

マイナス150mV〜プラス150mVの範囲内で管理する

DOと同じように、適正なORP値も、曝気槽の上流域〜中流域〜下流域で変わります。
仮に曝気槽が3つあって、第1曝気槽 ➤ 第2曝気槽 ➤ 第3曝気槽 ➤ 沈澱槽とある場合、

● 第1曝気槽(上流域):
BOD除去が活発に行われるため、微生物による酸素消費も活発で、ORPはマイナス100〜ゼロmVでも普通です。
● 第2曝気槽(中流域):
ORPは±0mV前後であれば良いと考えます。
● 第3曝気槽(下流域):
ORPはプラス150mV以下であれば良いと考えます。

※ORPの値がプラス150mVを超えると、それは過曝気状態と判断されますので、曝気量を抑える操作が必要です。

グラフこれを先ほどのORPのグラフに当てはめると、に示すとおりになります。